ネコ坊主の「ネコさんから人間さんへ今日の一言」Vol.9 どーん底に落ちたら、深海魚に会えるかもしれない。

ネコ坊主こと、専念寺住職の藪本正啓です。
この言葉は私にとって大事な言葉です。何故ならあの時の自分に言われているように感じたからです。
住職としてお寺を継いで十数年、代々守ってきたものを大切にしながらも、時代の変化に対応できないもどかしさをずっと抱えていました。
法事の依頼は減り、若い世代はお寺から離れ、参拝者もまばらに。
そんな現実を前にして、自分が何のためにここにいるのか、分からなくなっていました。
ある冬の日、境内のベンチに腰掛けて空を見上げながら、「もう辞めてしまおうか」と思っていた時、ふと見知らぬ男性が話しかけてきました。
「ここ、静かで落ち着く場所ですね。今日はちょっと、誰にも会いたくなくて…」
そう言って、彼は家族との不和や職場での孤立、心が限界にきていることをぽつぽつと語ってくれました。
私は特に何かを説いたわけではありません。ただ、静かに頷き、彼の言葉を受け止めました。
最後に彼は、「話してよかったです。また来てもいいですか」と言って帰っていきました。
あの日から、私は少しずつ考え方を変えました。
お寺とは「仏教を教える場所」だけではなく、「心が弱った人がそっと立ち寄れる場所」であってもいいのではないか、と。
「底」に落ちたと思っていた自分の時間があったからこそ、人の痛みにも気づけるようになった。
もし順調だったら、きっと私はその男性の話にも気づかず、ただ事務的に対応していたでしょう。
深海魚は、普段の海では出会えない。
けれど、暗くて静かな深海にまで潜ったからこそ、そこでしか出会えない命の輝きがある のだと思います。
私が会えた魚は、「人の弱さを大切にする」という、住職としての新しい姿でした。
あの底に落ちなければ、出会えなかった宝物 です。

