ネコ坊主の「ネコさんから人間さんへ今日の一言」Vol.9 どーん底に落ちたら、深海魚に会えるかもしれない。

2025.07.03 ● ネコ坊主のねこさんから人間さんへ今日の一言 ● コラム

 
Vol.9
どーん底に落ちたら、深海魚に会えるかもしれない。
 
 
 

 

ネコ坊主こと、専念寺住職の藪本正啓です。

 

この言葉は私にとって大事な言葉です。何故ならあの時の自分に言われているように感じたからです。

住職としてお寺を継いで十数年、代々守ってきたものを大切にしながらも、時代の変化に対応できないもどかしさをずっと抱えていました。
法事の依頼は減り、若い世代はお寺から離れ、参拝者もまばらに。
そんな現実を前にして、自分が何のためにここにいるのか、分からなくなっていました。
 
ある冬の日、境内のベンチに腰掛けて空を見上げながら、「もう辞めてしまおうか」と思っていた時、ふと見知らぬ男性が話しかけてきました。
「ここ、静かで落ち着く場所ですね。今日はちょっと、誰にも会いたくなくて…」
 
そう言って、彼は家族との不和や職場での孤立、心が限界にきていることをぽつぽつと語ってくれました。
私は特に何かを説いたわけではありません。ただ、静かに頷き、彼の言葉を受け止めました。
最後に彼は、「話してよかったです。また来てもいいですか」と言って帰っていきました。

あの日から、私は少しずつ考え方を変えました。
お寺とは「仏教を教える場所」だけではなく、「心が弱った人がそっと立ち寄れる場所」であってもいいのではないか、と。
 
「底」に落ちたと思っていた自分の時間があったからこそ、人の痛みにも気づけるようになった。
もし順調だったら、きっと私はその男性の話にも気づかず、ただ事務的に対応していたでしょう。

  深海魚は、普段の海では出会えない。
けれど、暗くて静かな深海にまで潜ったからこそ、そこでしか出会えない命の輝きがある
のだと思います。
 
私が会えた魚は、「人の弱さを大切にする」という、住職としての新しい姿でした。
あの底に落ちなければ、出会えなかった宝物 です。

 

★ネコ坊主の「ネコさんから人間さんへ今日の一言」は、毎月第1・第3木曜日に「〝人間関係が楽になる〟〝心にしみる〟ことば」を紹介しています。

 

プロフィル

融通念仏宗 一向山専念寺 住職 籔本正啓(通称:ネコ坊主)

大阪市平野区喜連にある専念寺の第25代住職。1982年、大阪市平野区生まれ。7歳で父を病で亡くし、 母方の実家である専念寺に戻り、僧侶を志す。 23歳で住職を拝命。専念寺は豊臣家ゆかりのお寺で、「日本で一番美しい」と言われる迦陵頻伽(かりょうびんが)を拝観できる。

地域ネコの見守りと保護活動にも力を入れ、寺の掲示板のことばの書と猫の写真をSNSに投稿し、大きな反響を呼んでいる。Xフォロワー28万人、Instagramフォロワー26万人(2025年4月時点)。

著書に『ネコさんの「心にしみる」おひとりさま名言』(双葉社)、『大阪 専念寺 ネコ坊主の掲示板 人の悩みのほとんどは「人」 今日のことば101」 (主婦と生活社)。

専念寺ホームページ

 

一覧へ戻る

おすすめ記事

新着記事

新着記事をもっと見る >
監修
よみふぁみ編集部運営:読売情報開発大阪
読売情報開発大阪が運営する、お得で楽しい生活情報Webメディア。関西を中心にグルメ・旅・エンタメ・レシピなど暮らしに役立つ情報をお届けします。読売新聞グループ。