ネコ坊主の「ネコさんから人間さんへ今日の一言」Vol.25 (特別編)泣く雛人形

2026.03.05 ● ネコ坊主のねこさんから人間さんへ今日の一言 ● コラム

Vol.25
(特別編)泣く雛人形

 

ネコ坊主こと、専念寺住職の藪本正啓です。
 
これは、今から10年前のお話です。
 
ある日、専念寺に一本の電話がありました。
お話しくださったのは、中年くらいの女性でした。
「亡くなった娘の雛人形が、夜になると泣くんです。
ぜひ、人形供養をしていただけませんか」
私は半信半疑のまま応対し、雛人形がお寺に来る日を待ちました。
 
後日届いたのは、立派な七段飾りの雛人形でした。
とても大切に保管されており、娘さんが生前に何度か飾っただけで、亡くなってからは辛くて一度も出せなかったそうです。
私の目には、特に変わった様子のない雛人形でした。
きっと、娘さんを亡くした悲しみの中で、泣き声が聞こえたように感じたのだろう。そう思っていました。
読経を行い、後日お焚き上げをして、人形供養は無事に終わりました。
 
ところが数日後、再び女性から電話がかかってきました。
「まだ泣き声が聞こえるんです。今度は家の中にいる娘に、供養をしてほしいんです」
私はすぐに車でご自宅へ向かいました。
仏前に手を合わせていると、確かに奥の方から、か細い鳴き声が聞こえてきました。音をたどっていくと、雛人形を保管していた納戸のあたり。さらに耳を澄ますと、納戸の下からでした。
その瞬間、私は気づきました。
 
「この泣き声は……子猫です」
 
近くの工務店の方にも応援に来ていただき、納戸の下から子猫を取り出しました。
子猫はかなり衰弱しており、すぐに動物病院へ向かいました。
女性が懸命に世話をしてくださったおかげで、子猫は一命を取り留めました。
私は女性にお伝えしました。
「ここまで人の手が入ると、親猫はもう世話をしません。もしよければ、あなたが育ててあげてもらえませんか」
少し間を置いて、女性はこうおっしゃいました。
「……なんだか、娘が戻ってきた気がします」
 
それから10年。
その猫は、女性の家族として大きく成長しました。
今でも、ときどき写真をDMで送ってくださいます。
もしかするとこれは、娘さんが母親に向けて示した、慈悲の気持ちだったのかもしれません。
 
※掲載の許可をいただいています。

 

★ネコ坊主の「ネコさんから人間さんへ今日の一言」は、毎月第1・第3木曜日に「〝人間関係が楽になる〟〝心にしみる〟ことば」を紹介しています。  ※掲載週は変更になる場合があります

 

プロフィル

融通念仏宗 一向山専念寺 住職 籔本正啓(通称:ネコ坊主)

大阪市平野区喜連にある専念寺の第25代住職。1982年、大阪市平野区生まれ。7歳で父を病で亡くし、 母方の実家である専念寺に戻り、僧侶を志す。 23歳で住職を拝命。専念寺は豊臣家ゆかりのお寺で、「日本で一番美しい」と言われる迦陵頻伽(かりょうびんが)を拝観できる。

地域ネコの見守りと保護活動にも力を入れ、寺の掲示板のことばの書と猫の写真をSNSに投稿し、大きな反響を呼んでいる。Xフォロワー28万人、Instagramフォロワー41万人(2026年2月時点)。

著書に『ネコさんの「心にしみる」おひとりさま名言』(双葉社)、『大阪 専念寺 ネコ坊主の掲示板 人の悩みのほとんどは「人」 今日のことば101」 (主婦と生活社)。

専念寺ホームページ

 

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