【相続コラム】Q50 子どものいない夫婦、夫が亡くなったら財産は全部妻のもの? |ワンコ税理士の損をしない相続

Vol.50
子どものいない夫婦、夫が亡くなったら財産は全部妻のもの?
「子どもがいませんから、夫が亡くなったら家も預金も、全部私のものになりますよね」
60代のご夫婦が相談に来られました。お二人に子どもはなく、ご主人の両親はすでに亡くなっています。ご主人には、長く疎遠になっている兄と妹がいます。
私がお答えしたのは、「このままでは、そうなりません」でした。
子どもがいなければ、親、次に兄弟姉妹が相続人になる
配偶者は常に相続人になります。
ただし、配偶者だけが相続人になるとは限りません。
亡くなった人に子どもがいない場合は、まず父母などの直系尊属、次に兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が先に亡くなっていれば、その子である甥や姪が代わって相続人になることもあります。
法定相続分は、配偶者と父母なら配偶者が3分の2、父母が3分の1。配偶者と兄弟姉妹なら、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が合わせて4分の1です。
冒頭のご夫婦の場合、ご主人の財産を自宅3,200万円、預金800万円、合計4,000万円です。法定相続分に沿えば、兄と妹の取り分は合わせて1,000万円相当です。

相続税がかからなくても、すべての財産が自動的に妻のものにはならない
この家庭の法定相続人は妻、兄、妹の3人です。
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数(3人)」なので4,800万円。
ほかに相続税の計算に加える財産などがなければ、遺産4,000万円に相続税はかかりません。
しかし、税金がかからないことと、妻が財産をすべて受け取れることは別です。
遺言書がなければ、誰がどの財産を受け取るかは、原則として相続人全員の遺産分割協議で決めます。
奥様が自宅を単独で相続するには、兄と妹を含めた話し合いをまとめる必要があります。
預金には、遺産分割前でも一定額を単独で払い戻せる制度があります。
ただし、預金残高全額を受け取るには、通常、遺産分割協議などの手続きが必要です。
集める戸籍も、連絡を取る相手も増える
兄弟姉妹が相続人になる場合、戸籍の収集も増えます。
ご主人だけでなく、ご両親についても出生から死亡までの戸籍が必要になるなど、相続人を確定する作業が複雑になります。
疎遠な兄弟であれば、連絡先の確認から始めなければなりません。
兄や妹が先に亡くなっていれば、会ったこともない甥や姪との話し合いが必要になることもあります。
さらに、兄と妹が法定相続分どおりの取得を求め、奥様が自宅を単独で相続するために現金で調整するなら、兄妹には合計1,000万円相当を渡すことになります。
預金は800万円しかないため、200万円不足します。
話し合いがまとまらなければ、手許の現金で用意する、自宅を共有にする、あるいは売却して分けるといった選択肢も現実味を帯びてきます。
「全財産を妻に」という遺言があれば、遺産分割協議は不要にできる
この家庭で、まず検討したいのが遺言です。
ご主人が「全財産を妻に相続させる」という有効な遺言を残しておけば、兄と妹との遺産分割協議をせず、遺言に基づいて自宅や預金の相続手続きを進められます。
ここで大きいのは、兄弟姉妹には遺留分がないことです。
遺留分とは、遺言によって取り分が少なくなった一定の相続人が、一定額の金銭を請求できる権利です。子どもや父母にはありますが、兄弟姉妹にはありません。
そのため、有効な遺言で「全財産を妻に」と定めておけば、兄や妹は法定相続分が4分の1あることを理由に、その分を遺留分として請求することはできません。

父母が存命なら、同じ遺言でも結果は違う
ただし、ご主人の父母が存命なら話は変わります。
父母には遺留分があり、配偶者と父母が相続人になる場合、父母の遺留分は合わせて相続財産の6分の1です。
また、夫婦双方で備えることも大切です。
奥様が先に亡くなれば、今度は奥様側の親や兄弟姉妹が相続人になることがあります。
夫婦で一つの遺言書に連名することはできず、それぞれが一通ずつ作成します。
財産額より先に、「誰が相続人か」を確認する
子どものいないご夫婦では、財産額や相続税より先に、誰が相続人になるのかを確認することが大切です。
お互いの親は存命か。兄弟姉妹は何人いるか。亡くなった兄弟姉妹に子どもはいるか。
そして、自宅や預金はどちらの名義になっているか。
こうしたことを確認したうえで、遺言を準備しておくことが重要です。
自筆証書遺言を作るなら、法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する方法もあります。
紛失や改ざんを防ぐことができ、相続後の家庭裁判所の検認も不要になります。
ただし、法務局が遺言の内容まで審査し、法的な有効性を保証してくれる制度ではありません。
そのため、遺言書の作成は、公証人が関与して作成する公正証書遺言がおすすめです。
「長く二人で暮らしてきたのだから、残されたほうが全部受け取れる」とは限りません。
子どものいない夫婦ほど、元気なうちに相続人を確認し、それぞれが遺言を用意しておく。
それが、残された配偶者を疎遠な親族との遺産分割協議から守る、有効な備えです。

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