【相続コラム】Q52 「遺産はいらない」と言ったのに、親の借金を払うことに? |ワンコ税理士の損をしない相続

Vol.52
「遺産はいらない」と言ったのに、親の借金を払うことに?
「実家は、お父さんと暮らしていたお兄ちゃんに。預金は、通院や身の回りの世話をしてくれたお姉ちゃんに。私は何ももらわなくていいよ」
父が亡くなり、兄・姉・妹の3人で遺産の分け方を話し合いました。
父の世話を兄と姉に任せきりだった妹にとって、これはせめてもの気持ちでした。
兄も姉も「ありがとう」と受け入れ、実家は兄が、預金は姉が相続することに。
妹は「これで私は相続を放棄した」と思っていました。
ところが後日、父の借金の返済を求める書類が、妹のもとにも届きます。
「私は何ももらっていないのに、どうして?」
実は、相続の相談では「私は放棄しました」というお話をよく聞きます。
詳しく伺うと、家庭裁判所で手続きをした方は少なく、多くは「家族で話し合って、遺産を受け取らないと決めた」という意味で使われています。
いわば「事実上の放棄」です。
しかし、家庭裁判所での正式な手続きである「相続放棄」とは、借金の扱いが大きく違うのです。
「何もいりません」でも、借金は引き継ぐ?
妹が署名したのは、「実家は兄、預金は姉」と分け方を決めた書類です。
これを遺産分割協議書といいます。
父の相続人は、この3人。
妹が受け取る財産をゼロにしても、相続人でなくなったわけではありません。
相続で引き継ぐものには、家や預金だけでなく、借金も含まれます。通常の借入金は、原則として法律で決められた相続割合に応じて負担します。
例えば、父に600万円の借金が残っていれば、この3人の場合は原則200万円ずつ。何も受け取っていない妹も、同じです。
「財産をもらっていないから、借金も関係ない」とはいかないのです。
「借金は兄が払う」と決めていたら?
「それなら、借金も全部お兄ちゃんが払うと決めておけばよかった?」
妹はそう思うかもしれません。ところが、それだけでは妹への請求は防げません。
兄、姉、妹の間で「兄が払う」と約束しても、お金を貸した銀行が、その約束を了承したわけではないからです。
銀行の同意がなければ、「兄に請求してください」と伝えても、妹自身の返済義務はなくなりません。兄が払うと決めていても、銀行は姉や妹にそれぞれの負担分を請求できます。
兄だけが返済義務を負う形にするには、銀行の同意を得る必要があります。
家族の間では話がついていても、お金を貸した側にとっては別の話。ここが見落としやすいところです。

借金も引き継がないための「相続放棄」
では、財産も借金も引き継がないためには、どうすればよいのでしょうか。
必要なのが、家庭裁判所での正式な「相続放棄」の手続きです。
亡くなった人が最後に住んでいた地域の家庭裁判所で手続きをし、認められると、初めから相続人ではなかったことになります。
亡くなった人の借金を負担することもなくなります。
ただし、財産も借金もまとめて引き継がない手続きなので、「預金はもらって、借金だけ放棄する」という選び方はできません。
なお、自分が受取人に指定されている生命保険金は、原則として受取人自身の財産です。
相続放棄をしても受け取れますが、その保険金には、生命保険金に設けられた相続税の非課税枠は使えません。
「あとで考えよう」では間に合わないことも
相続放棄の期限は、原則3か月です。
亡くなったことと、それにより自分が相続人になったことを知ったときから数えます。
「家族の話し合いが終わってから3か月」ではありません。
葬儀や四十九日、役所や銀行の手続きをしていると、3か月はあっという間です。
そして、期限だけでなく、手続きの順番も大切です。
遺産の分け方が決まり、遺産分割協議が成立すると、相続を受け入れたものと扱われます。
その後で「やっぱり相続放棄をしたい」と思っても、原則としてできません。
「何ももらわないから」と、先に書類へ署名してしまわないようにしましょう。
妹はどうなったのか
妹はすでに遺産分割協議書に署名し、協議が成立しています。
後から相続放棄をすることは原則としてできず、借金を知らなかったというだけで当然に認められるわけでもありません。
そこで妹は、届いた書類と協議書を持って、弁護士に相談することにしました。
同じような請求が届いたら、「もう放棄したから関係ない」と放置せず、早めに相談してください。

家族への気持ちと、借金の確認は別に
相続税の計算では、一定の借金を財産から差し引きます。
そのため私たち税理士も、申告の準備では財産と借金の両方を確認します。
相続が起きたときは、通帳の返済記録、銀行からの郵便物、借入れの契約書にも目を通しておきましょう。
「兄や姉に譲りたい」という気持ちは、そのままで構いません。
ただ、「何もいらない」と決める前に、借金がないかを確かめる。それが、「放棄したつもり」で終わらせないための第一歩です。

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