【相続コラム】Q 家族なのに預金を下ろせない? 親の認知症で止まる手続き ワンコ税理士の損をしない相続Vol.42

Vol.42
家族なのに預金を下ろせない? 親の認知症で止まる手続き
親が高齢になると、「いざというときは家族が何とかすればよい」と考える方は少なくありません。
通帳やキャッシュカードの場所は知っている。実印も権利証も家にある。子どもなのだから、必要になれば預金を下ろしたり、実家を売ったりできるはず。
そう思っていても、親の認知症が進み、判断能力が低下すると、家族でも自由にできなくなる手続きがあります。
まず問題になりやすいのが預金
親の生活費、介護費、入院費を支払うために、家族が親の預金を使いたい。
目的は当然のことであっても、銀行から見れば、その預金はあくまで親本人の財産です。
本人の意思確認ができなければ、家族だからという理由だけで窓口から自由に引き出せるわけではありません。
キャッシュカードで現金を引き出しているご家庭もありますが、これも注意が必要です。
親本人の生活費や医療費に使っていると説明できるよう、領収書やメモを残しておきましょう。使い道が不明なままだと、後の相続で「誰が何に使ったのか」と疑われる原因になります。
不動産は、さらに慎重な判断が必要
たとえば、親が施設に入り、空き家になった実家を売って入居費用に充てたい、と考えることがあります。しかし、不動産を売るには、所有者である親本人の「売る意思」が必要です。認知症が進み、売却の意思が確認できない状態であれば、家族が代わりに売買契約を結ぶことはできません。
「子ども全員が賛成しているから大丈夫」という問題でもありません。
実家の名義が親のままである以上、売る人はあくまで親本人だからです。

贈与も同じ
相続税対策として、親から子や孫へ毎年少しずつ贈与したい、と考えるご家庭があります。
しかし、贈与は「あげる人」と「もらう人」の合意によって成り立つ契約です。親が贈与の内容を理解し、自分の意思で財産を渡すことが必要です。
認知症が進んだ後に、家族の判断で預金を移したり、不動産の名義を変えたりすると、その贈与が有効かどうかが問題になります。
相続税の調査でも、名義預金や使途不明の資金移動としてみなされることがあります。
検討される成年後見制度
こうした場面で検討されるのが、成年後見制度です。
判断能力が不十分になった方の財産管理や契約を支援する制度で、本人があらかじめ選んで契約を結ぶ場合と、家庭裁判所が後見人等を選任する場合があります。
預金管理、施設契約、不動産売却などで必要になることがあります。
ただし、成年後見制度は「相続税対策を続けるための制度」ではありません。
本人の財産を守り、本人の生活や療養に必要な支出を行うための制度です。
節税目的の贈与や、家族に有利な財産移転は、原則として行いにくくなります。
また、親が住んでいた自宅などの居住用不動産を売却する場合には、後見人が付いていても、家庭裁判所の許可が必要です。
後見人がいれば何でもすぐにできる、というわけではありません。
なお、成年後見制度は見直しも進んでいます。令和8年6月には改正法が成立し、従来の「後見・保佐・補助」という仕組みを見直して、必要な範囲で利用しやすくする方向へ変わっていきます。ただし、施行はこれからです。
実際に手続きを考える場合は、現時点では今の制度を前提に確認する必要があります。
元気なうちに検討できる家族信託契約
もう一つ、元気なうちに検討されることがあるのが家族信託です。
親が判断能力のあるうちに、信頼できる家族へ財産の管理を任せる仕組みで、将来認知症になった場合に備えて、実家の管理や売却、預金の管理方法をあらかじめ決めておくことができます。
ただし、家族信託も万能ではありません。契約で定めた財産しか対象になりませんし、内容を誤ると、税務上の問題や相続人どうしの不公平感につながります。
信託契約の設計は、司法書士や弁護士などの専門家に相談して進めるべき分野です。

「まだ大丈夫」と思える時期こそ
大切なのは、親が認知症になってから慌てるのではなく、元気なうちに「誰が、何を、どこまでできるようにしておくか」を確認しておくことです。
預金はどの口座にあるのか。不動産の名義は誰か。施設入居や医療費に使う資金はどこから出すのか。相続税がかかりそうな財産規模なのか。
これらを早めに整理しておけば、任意後見、家族信託、遺言、生前贈与などを検討できます。
どの方法がよいかは、財産の内容、家族関係、親の希望によって変わります。
「家族だから何とかできる」と思っていても、金融機関や法務局、契約の相手方は、本人の意思確認を重視します。家族の善意だけでは進められない手続きがあるのです。
親の認知症対策は、特別な家庭だけの話ではありません。
預金、実家、介護費用、相続税 どれも、多くの家庭に関係します。
まだ大丈夫と思える時期こそ、確認を始めるタイミングです。

「ワンコ税理士の損をしない相続」コラム一覧

- 奥典久税理士事務所代表(大阪市北区)
- 相続税法の講師経験を活かし、相続税の申告や節税対策、遺言、家族信託、事業承継まで幅広く対応。
豊富な実績と丁寧な対応で多くの相談者から信頼を集めている。
おすすめ記事
-
-
Q 相続手続きに期限はある? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.33
ワンコ税理士の損をしない相続2026.04.06
-
-
【相続コラム】Q 相続した家、すぐ売ると損をする? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.39
ワンコ税理士の損をしない相続2026.06.03
-
-
Q 銀行口座の払戻しや名義変更はいつする? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.23
ワンコ税理士の損をしない相続2025.12.22
-
-
Q 親が認知症になったら子どもが預金を引き出せる? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.12
ワンコ税理士の損をしない相続2025.09.08
-
-
Q 塾代や定期代に贈与税はかかる? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.8
ワンコ税理士の損をしない相続2025.08.04
-
-
Q 「長男が全部やる」は今でも通用する? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.26
ワンコ税理士の損をしない相続2026.01.26
-
-
Q 相続税がかからなくても申告は必要? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.27
ワンコ税理士の損をしない相続2026.02.03
-
-
Q 相続が発生したら一番最初にすることは? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.21
ワンコ税理士の損をしない相続2025.12.08
-
-
奥税理士の損をしない相続法 第6回:「贈与」で相続税を節税!
ワンコ税理士の損をしない相続2025.07.14
-
-
Q 認知症になった後でも家族信託は使える? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.14
ワンコ税理士の損をしない相続2025.09.29
-
-
奥税理士の損をしない相続法 第1回:誰に相談する? 相続のベストパートナーを探せ!
ワンコ税理士の損をしない相続2025.06.02
-
-
Q 相続が発生して生命保険や年金はいつ請求する? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.22
ワンコ税理士の損をしない相続2025.12.15
-
-
Q 子ども同士の相続トラブルを防ぐ方法は? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.16
ワンコ税理士の損をしない相続2025.10.20
-
-
Q きょうだい仲が良くても遺言書は必要? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.28
ワンコ税理士の損をしない相続2026.02.16
-
-
Q 自宅しかない相続が一番簡単? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.29
ワンコ税理士の損をしない相続2026.02.24
-
-
Q 大学の子どもに生活費15万円を送金すると贈与税かかる? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.9
ワンコ税理士の損をしない相続2025.08.18
-
-
Q 相続放棄は「借金」だけ放棄できる? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.24
ワンコ税理士の損をしない相続2026.01.13
-
-
Q 親の介護をしていた人は、多く相続できますか? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.35
ワンコ税理士の損をしない相続2026.04.20
-
-
Q 遺言書には必ず従わないといけない? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.19
ワンコ税理士の損をしない相続2025.11.17
-
-
Q 遺言書さえあれば、相続はもう安心? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.37
ワンコ税理士の損をしない相続2026.05.18
-
-
Q 親が認知症になった後でも対策できる? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.34
ワンコ税理士の損をしない相続2026.04.13
-
-
Q 父親が自分自身を被保険者として契約し、息子が受取人なら相続税はかかる? ワンコ税理士の損をしない相続V...
ワンコ税理士の損をしない相続2025.11.25
-
-
Q 相続税はどのくらいの財産からかかる? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.10
ワンコ税理士の損をしない相続2025.08.25
-
-
Q 配偶者の税額軽減は自動で適用される? ワンコ税理士の損をしない相続法Vol.11
ワンコ税理士の損をしない相続2025.09.01
-
-
Q 再婚した場合、相続はどうなるの? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.36
ワンコ税理士の損をしない相続2026.05.11
-
-
【相続コラム】Q 名義を変えれば安心? 生前の不動産名義変更で知っておきたいこと ワンコ税理士の損をしない...
ワンコ税理士の損をしない相続2026.06.15
-
-
奥税理士の損をしない相続法 第4回:相続した土地の名義変更、放っておくと?
ワンコ税理士の損をしない相続2025.06.23