【相続コラム】Q 相続した家、すぐ売ると損をする? ワンコ税理士の損をしない相続Vol.39

Vol.39
相続した家、すぐ売ると損をする?
親が住んでいた家を相続したとき、多くの方が悩まれるのが「この家をどうするか」という問題です。
自分で住む予定はない。賃貸に出すのも手間がかかる。空き家のまま置いておくのも不安。そう考えると、「早めに売ってしまおう」と思うのは自然なことです。
たしかに、相続した家をそのまま放置すれば、固定資産税、火災保険、管理費、草木の手入れなどの負担が続きます。古い家であれば、雨漏りや建物の老朽化、近隣への影響も気になります。
ただし、「すぐ売る」という判断が、必ずしも一番得になるとは限りません。相続した家は、売るタイミングや使える制度によって、税負担が大きく変わることがあるからです。
売却益には税金がかかる
相続した家を売って利益が出た場合、その利益には所得税・住民税がかかります。
この利益を「譲渡所得」といいます。
譲渡所得は、簡単にいうと、売った金額から取得費や売却にかかった費用を差し引いて計算します。
ここでよくある誤解が、「相続したものだから取得費はゼロになる」というものです。
また、取得費は、相続税を計算するときの評価額や、相続時の時価で計算するわけでもありません。
相続で取得した不動産の場合、原則として、亡くなった方がその土地や建物を購入したときの金額を引き継いで計算します。
ただし、もう一つ注意点があります。
親が昔3,000万円で購入した家を3,000万円で売ったとしても、利益が出ないとは限りません。
土地は基本的に購入金額をもとに考えますが、建物は時の経過とともに価値が下がるものとして計算します。そのため、建物部分の取得費は購入時より少なくなり、結果として売却益が出る場合があります。
さらに大きな問題は、古い不動産ほど、当時の売買契約書や領収書などの資料が残っていないことです。取得費が確認できない場合には、売却金額の5%相当額を概算取得費として計算できる取扱いがあります。
たとえば、2,000万円で売却した家について取得費が分からない場合、概算取得費は100万円です。仲介手数料などを別にすれば、1,900万円が利益として扱われます。実際には昔もっと高く買っていたとしても、資料がなければ不利になることがあります。
そのため、売却を考える前に、購入時の契約書、領収書、建築費の資料、過去の登記関係書類などが残っていないかを確認することが大切です。
相続税を払った方は、早めの売却が有利になることも
相続税を支払った方が、相続した不動産を一定期間内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる制度があります。
これを一般的に「相続税の取得費加算の特例」といいます。
取得費が増えると、その分だけ売却益が小さくなり、結果として譲渡所得にかかる税金が少なくなります。
この制度で特に注意したいのは期限です。
原則として、相続税の申告期限の翌日から3年以内、目安として相続開始から3年10か月以内に売却する必要があります。
「いつ売っても同じ」と思っていると、使えるはずだった制度を逃してしまうことがあります。
相続税を支払っている方は、売るかどうか迷っている段階でも、期限だけは早めに確認しておきたいところです。

空き家には「3,000万円特別控除」という制度もある
亡くなった方が一人で住んでいた家など、一定の要件を満たす空き家を売却する場合には、譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける特例があります。
いわゆる「相続空き家の3,000万円特別控除」です。
この制度が使えると、売却益から最大3,000万円を差し引けるため、税金を大きく抑える効果があります。
ただし、誰でも使えるわけではありません。
亡くなった方の居住状況、昭和56年5月31日以前に建築された家屋であること、相続後の利用状況、耐震基準、取り壊しの有無、売却金額など、細かな要件があります。
また、令和6年1月1日以後の譲渡については、対象となる家屋や敷地等を取得した相続人の数が3人以上の場合、相続人1人あたりの控除額が2,000万円までとなります。
「空き家だから当然使える」と思っていたら、要件を満たしていなかったということもあります。
売却後に慌てて確認するのではなく、売る前に制度の対象になりそうかを確認しておくことが重要です。
「相続後5年以内は税率が高い」は誤解の場合も
不動産の売却では、所有期間が5年を超えるかどうかで税率が変わります。
一般的には、5年以内であれば「短期譲渡」、5年を超えれば「長期譲渡」となり、長期譲渡の方が税率は低くなります。
ここでよくある誤解が、「相続してから5年以内に売ると、短期譲渡になり税率が高くなる」というものです。
相続した不動産の場合、原則として、亡くなった方が取得した時期を引き継ぎます。
つまり、親が30年前に購入した家であれば、相続してすぐ売却しても、長期譲渡として扱われます。
判断基準は「自分が相続してから何年たったか」ではなく、「亡くなった方がいつ取得した不動産か」です。この点を誤解して、不要に売却を先延ばしにしないよう注意が必要です。
税金だけでなく、維持コストも考える
ここまで税金の話をしてきましたが、税金だけで判断するのも危険です。
空き家を持ち続ける間にも、固定資産税、火災保険、管理費、修繕費などがかかります。
遠方にある家であれば、草刈りや郵便物の確認、近隣対応だけでも負担になります。
また、人が住まなくなった家は老朽化が進みやすく、雨漏りや湿気、害虫、庭木の繁茂などにより、売却時の印象が悪くなることもあります。
建物の状態が悪くなれば、売却価格が下がるだけでなく、先に解体費用が必要になる場合もあります。
「税金が少し安くなるかもしれない」という理由だけで売却を先延ばしにした結果、維持費や値下がりで総合的には損をしてしまうこともあります。
まず確認したい6つのこと
相続した家をどうするか迷ったときは、まず次の点を整理してみてください。
- その家に住む予定、または貸す予定はあるか
- 相続税を支払っているか
- 購入時の契約書や建築費の資料は残っているか
- 使える特例はあるか、その期限はいつか
- 固定資産税や管理費などの維持費は年間いくらか
- 現在売却すると、いくらぐらいで売れそうか
相続した家をすぐ売ると損をするのか。
答えは、「人によって違う」というのが正直なところです。
ただ、何も確認せずに売ってしまうと、使えたはずの特例を逃すことがあります。反対に、迷い続けているうちに維持費が膨らみ、建物の価値が下がってしまうこともあります。
相続した家は、感情だけでも、税金だけでも判断しにくい財産です。早めに全体像を整理し、家族で話し合い、必要に応じて専門家に相談することが、結果として一番の損失防止につながります。

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