【相続コラム】Q 名義を変えれば安心? 生前の不動産名義変更で知っておきたいこと ワンコ税理士の損をしない相続Vol.40

Vol.40
名義を変えれば安心? 生前の不動産名義変更で知っておきたいこと
「親が元気なうちに、家や土地の名義を子どもに変えておけば安心ですよね」。
相続のご相談を受けていると、このような声を耳にします。
たしかに、不動産は預金のように簡単には分けられません。
相続が起きてから相続人全員で話し合うことになれば、時間も気力もかかります。
話し合いが長引けば、実家の管理や固定資産税の負担も残ります。
だからこそ、「先に名義を変えておけば安心」と考えたくなるのです。
不動産名義変更の落とし穴
いくつかの落とし穴があります。
不動産の名義変更は、単に登記簿上の名前を書き換えるだけの手続きではありません。
親から子へ無償で名義を移すのであれば、原則として「贈与」です。
財産をもらった側には、贈与税の申告や納税が必要になる場合があります。
しかも、不動産では贈与税だけを見ていればよいわけではありません。
登記費用、登録免許税、不動産取得税なども確認が必要です。
相続で受け継ぐ場合と比べて、生前贈与の方が全体の費用負担が重くなりやすい点には注意しなければなりません。

「早めに動いた方が得だと思っていたのに、思った以上に費用がかかった」という相談は珍しくありません。実行前に税金や諸費用の概算を出すだけでも、判断の失敗はかなり防げます。
ここは最初の確認点です。
相続時精算課税制度を使えば解決する?
では、「相続時精算課税制度」を使えば解決するのでしょうか。
この制度は、一定の親子間などで使える有効な選択肢です。
贈与時の税負担を抑えられる場合があります。
しかし、贈与した時点ですべて終わる制度ではありません。
贈与者が亡くなったときには、原則としてその贈与財産を相続税の計算に取り込みます。
つまり、「今、贈与税の負担を抑えられること」と、「将来の相続税まで心配しなくてよいこと」は別の話です。
もう一つ見落としやすいのが、名義を変えた後の暮らしです。
たとえば、親が住み続ける自宅を子ども名義にしたとします。
その不動産を売る、貸す、担保に入れるといった判断は、原則として新しい名義人である子ども側に移ります。
親の財産を守るつもりが、親自身の生活や介護費用の選択肢を狭めてしまうこともあります。
相続でこじれやすいのはお金よりも家族の感情
そして、相続で最もこじれやすいのは、税金よりも家族の感情です。
長男が同居して親の面倒を見ていたため、自宅を長男名義にした。
長男から見れば自然なことかもしれません。
しかし、他の兄弟姉妹から見れば、「なぜ長男だけが先にもらったのか」と感じることがあります。説明がないまま名義だけが変わっていると、不満は不信感に変わります。

生前贈与は、相続の場面で「特別受益」として問題になることがあります。
また、他の相続人に法律上保障された最低限の取り分である「遺留分」を侵害していれば、後から請求を受けることもあります。
名義を変えたからといって、他の相続人が何も言えなくなるわけではありません。
むしろ、理由や経緯が見えない名義変更ほど、争いのきっかけになりやすいのです。
気を付けたい手続きのタイミング
手続きのタイミングも大切です。
名義変更をした当時、親に十分な判断能力があったかどうかが後から問題になることがあります。
認知症の症状が進んでいた場合などには、贈与そのものの有効性が争われることもあります。
生前対策は、「まだ大丈夫」と思える時期に、親本人の意思を確認しながら進める必要があります。

生前の名義変更が有効な場面も
もちろん、生前の名義変更が有効な場面もあります。
婚姻期間20年以上の夫婦間で居住用不動産を贈与する場合、一定の要件を満たせば贈与税の配偶者控除を受けられる制度があります。
不動産管理をしやすくするために、名義整理が役立つこともあります。
大切なのは、「名義変更そのものが悪い」と考えることではありません。
問題は、目的があいまいなまま手続きを先に進めることです。
考える順番は、「誰の名義にするか」ではなく、「何のために名義を変えるのか」です。
そのうえで、税金や費用はいくらか、親の生活資金は足りるか、他の家族にどう説明するかを確認します。
さらに、遺言書の作成、家族信託契約、生命保険の活用、代償金の準備など、別の方法と比べることも欠かせません。
名義変更は、相続対策のゴールではなく選択肢の一つ
名義変更は、相続対策のゴールではなく選択肢の一つです。
安心のために行う手続きが、将来の負担や争いにつながっては本末転倒です。
だからこそ、手続きを急ぐ前に、家族関係、税金、親の暮らしを含めて、全体を見ながら慎重に判断することが大切です。

「ワンコ税理士の損をしない相続」コラム一覧

- 奥典久税理士事務所代表(大阪市北区)
- 相続税法の講師経験を活かし、相続税の申告や節税対策、遺言、家族信託、事業承継まで幅広く対応。
豊富な実績と丁寧な対応で多くの相談者から信頼を集めている。
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