山本ゆりさん連載コラムseason2の第一回目『料理の名前についての雑談』
~料理の名前についての雑談~
これを見て欲しい。

娘も、そして私も幼い頃から大好きなお菓子、ブルボンの「チョコあ~んぱん」。この商品に対して小さな疑問を持ったことがある方もいると思う。
「おかんがな、好きなパンの名前を忘れたらしいねん。」
「え、どんなパンなん。なんか特徴言ってなかった?」
「おかんが言うにはな、表面にけしの実みたいな粒がついてるらしい。」
「ほな、あんぱんやないか。なぜかあのパンだけ昔から頭にけしの実がついてるのよ。あの香ばしさとあんこのハーモニーが最高なのよ。おかんが好きなのはあんぱん。間違いない。」
「いや、俺もあんぱんやと思ったんやけどな。おかんが言うには、あんこは入ってないらしいねん。」
「ほな、あんぱんちゃうやないか!あんぱんはね、中にあんこが入ってるからあんぱんなのよ。あんこが入ってないあんぱんなんて存在しないのよ。他になんか特徴言ってなかった?」
「中身が、チョコらしい。」
ほな、チョコパンやないか!!
と。でもこれは、あんぱんという誰もが知っている食べ物のチョコバージョン、
ということでチョコあ~んぱんで間違いないのだ。(この商品に関してはさらに「あ~ん」と口にいれるのも、かけてるらしいです)
このように料理名と言うのは、しばしば正しさよりもわかりやすさが優先される。「揚げないフライドチキン」、「揚げないから揚げ」然り。いや揚げてない時点でフライドチキンでもから揚げでもないがな、という話だが、そのほうが作る側が味のイメージがしやすいからだ。
ただ個人的に、明らかな間違いはしたくないという気持ちがある。
例えばペペロンチーノ。直訳すると唐辛子なので、唐辛子を入れずに作ったらもうペペロンチーノではなくなる。「豚バラでタッカルビ」や「生クリーム不要!パンナコッタ」なども「いやタッは鶏肉や!」「パンナは生クリームやで」みたいなことになる。
そういうのを後から知るのも恥ずかしいので、横文字の料理は一応「タッカルビ 定義」とか「ピカタとは」みたいに検索して定義を調べ、「プルコギのプル=火 コギ=肉 ということは別に鶏肉でも豚肉でもOKってことか・・・」など矛盾がなければ名付けている。
別に誰に突っ込まれるわけでもないし、
いちいち他人に「ムースは泡という意味だからその作り方はババロアですぅーーーー」とか「チゲはそれ自体が鍋って意味やからチゲ鍋は鍋鍋になってますぅーーーー」などと言わない。(鬱陶し過ぎるやろ。唇をしまえ)
でもできる限りは正しい表記をしたいし、聞かれた時には答えたいので、
毎回できるだけ調べるようにしている。ついでにその背景や歴史を知れるのも楽しいですしね。(て勉強家のように言うたけど、どうせネットで誰かがまとめてくれた記事読んでるだけやろ)
ただ、矛盾があってもその名前を付けたいこともある。
たとえば韓国料理のタッカンマリ。本来はタッカンマリは「鶏1羽」という意味らしい。
したがって鶏もも肉だけを使うとタッカンマリではなくなるのだが、鶏をネギやじゃがいもと煮込み、甘辛酸っぱいタレにつけて食べる・・・・いやもうタッカンマリやん。味も食べ方もタッカンマリ。「鶏とネギとじゃがいもの鍋~ピリ辛酸っぱいタレを添えて~」とか長過ぎるしわかりにくいわ。
あるいはレンジでガトーショコラ。ホットケーキミックスで作るのだが、本来はメレンゲの泡で膨らませる。でも、「しっとりチョコレートケーキ」より「ガトーショコラ」の方が、雰囲気が伝わる。ガトーショコラって言いたい・・・・
そういう時は必殺「風」の登場だ。「タッカンマリ風」「ガトーショコラ風」。
風には「知らんけど」と同じような、「定義からはずれておりますがお手柔らかにたのんます」という牽制の意味を込めている。
テレビなどでは「なんとレンジでガトーショコラが!」とか、「餃子の皮でラーメンが!」などと言い切らないといけないので気が気でない。確かに「なんとレンジでガトーショコラのようなものが!」と言われても、「ようなものかい」ってなるし、「なんと揚げずにコロッケ風のものが!」とか、コロッケちゃうんかい、て話で見てる方はそそられない。だからそこは渋々従うのだが、自分のブログは暴風警報注意だ。ガパオ風、わらびもち風、もつ鍋風・・・
最後にこれを見て欲しい。

「チョコあ~んぱんカスタード味~クリームパンのおいしさを召しあがれ!~」※現在は販売終了しています
中身がチョコでないばかりか、そもそものベースがあんぱんからクリームパンに変わっている。
ほな、もうカスタードクリームパンやないか!!
だが、チョコあ~んぱんはもう、中身があんことかチョコとかの次元ではない。
言わば「バームロール」や「ホワイトロリータ」のように、
「チョコあ~んぱん」という1つの商品名なのだ。誰もが知っている「チョコあ~んパン」の、カスタードクリームバージョン。ということで、「チョコあ~んぱんカスタード味」で間違いない。
これを見ると、もう私のペペロンチーノが唐辛子だとか小さなことはどうでもよくなってくる。
見た目がペペロンチーノならいいじゃないか。ペペロンチーノは唐辛子ではなく、ペペロンチーノというネーミングのパスタなのだ。もっと自由に生きよう。細かいことは抜きにしよう。
などと自分の中で寛容になりつつも、いや、わかってる人にはわかってるはず、そこは正しくあろう・・・と思いながら、今日も暴風を吹かせている。
山本ゆりさんに用意していただいた
オリジナル最新レシピを紹介

山本ゆり プロフィール
料理コラムニスト。大阪生まれ&在住。著書「syunkonカフェごはん」シリーズ(宝島社刊)など著書は累計約700万部。最新刊「syunkonカフェごはん7 この材料とこの手間で「うそやん」というほどおいしいレシピ」ほか、「syunkonカフェ どこにでもある素材でだれでもできるレシピを一冊にまとめた「作る気になる」本」(扶桑社刊)など。新刊エッセイ「syunkon日記 おしゃべりな人見知り」(扶桑社)が3月30日に発売決定
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